次元のトビラ

冥土の土産 19

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信じそうになったオレが馬鹿だった。

何がお婆ちゃんだ。お前こそ地獄へ行ってしまえ。


「そんなことで怒っちゃだめだよ。“徳”が減るよ」


ここで、それ言う?。

声とも音とも見分けの付かないものが、鼻から漏れて出た。

こいつはオレよりも何枚も上手だ。


「閻魔さんはいないよ。だって、1日に何万人も人が死んでるのに、

 ひとりでは捌ききれないでしょ」


なるほど。そりゃそうだ。

しかしここは慎重な判断が必要だ。

うかつに信じて油断させておいて、座布団全部没収なんて事をやりかねない。

“笑点”ならぬ“昇天”にならないように、しっかりと“焦点”を合わせないといかん。

いいぞいいぞ。調子が戻ってきたよ。


地獄はあるのかと聞いてみた。


「人が思っているような血の池とか、灼熱の炎の中に放り込まれることはないよ。

汚れの多い魂は他の魂と接触が許されないの。

長い孤独の中で過ごすのはとってもつらく感じるわね。

それを地獄って思うかも知れない」


だめだ。オレとしては誰とも話が出来ないのなら、まさに地獄だ。


「刑務所の独房みたいだね。」

「もっとつらいと思うよ。独房は時間が来れば解かれるけれども、

 汚れを自覚して自分で落とすのは大変みたいだよ」


あいつがまた、真面目な顔に戻っている。


「お兄ちゃんはこの後、別のステージに移されるんだ。そこで今まで生きてきて、

“徳”を積んだことや悪さをしたことを全部見せられるんだよ」


褒めてくれるのは嬉しいけれども、ダメ出しされるのは嫌だな。

十分反省してきたから、許してやってくれよ。


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# by waketa | 2018-02-19 08:00 | 冥途の土産 | Comments(0)

冥土の土産 18

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二十歳のころのオレを見たい。スマホに語りかけるようにしゃべった。


鏡の中では先ほどと同じ白い煙が渦を巻き、次第に人の形が出来上がっていく。

当時よく履いていたジーンズ。かかとの高さが5センチもある茶色の靴。


胸にパイプのロゴが入った黄緑色のポロシャツ。

ヘヤリキッドとドライヤーで固めた髪形。セミバックスタイル。

すっかり大人の雰囲気が漂ってるじゃないか。


高校を卒業したあたりから、実年齢よりも4歳くらい年配に見られていた。

老けて見られるのは抵抗がなかった。大人っぽく見られることに気をよくしていたから。


「話を進めていいかな?」


どうしてこいつは、いつも無遠慮なんだ。

思い出に浸ってるんだぞこっちは。何が気にいらないんだよ。


「この精霊界でね、“徳点”を確認するんだよ」


「得点?」


「つまり、生きてる間に、どれだけ沢山、“徳”を積んだかを確認するんだよ」


「ああ、試験の得点じゃなくて、 美徳の徳点か」


小さな頃に聞かされていたことを思い出した。


「まさか閻魔大王が試験官で、嘘ついたら舌を抜かれたり、

 徳よりも悪さが勝っていると、地獄に行かされるってやつ?」


「う~ん。そうだね!」



オレは試験の得点もそうだけど、“徳”となるともっと自身がない。

うそなんて、生涯の“徳点”よりもはるかに大いに決まってる。

『地獄行きを申し付ける』なんてことはおおいに可能性はある。

オレに、どれだけの“徳”があるんだろう。人徳ってやつも、ありそうもない。

そんなことになるんだと分かっていたら・・・。


「ウッソだよ~」


ピストルをくれ。弾倉が空になるまで、あいつに発砲してやる。


ピストルは出てこないのか。


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# by waketa | 2018-02-18 08:00 | 冥途の土産 | Comments(0)

冥土の土産 17

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何日かかるんだよ。これだけのメロンパンを食べるのに。

消費期限もあるだろ。

誰かが操作してるんじゃないのか。


「ここでは生きていた頃と違って、お腹は空かないし食べなくても死なないの。死んでるから」

諭すように話しかけてきた。


オレはもう死んでいる。お前も既に死んでいる。


「ところで、ここはどこなんだ。オレはどうなるんだ」

夢の中なのか現実なのか、先行きが読めない。

大きな不安が押し寄せてきた。


少女はちょっと背筋を伸ばして真面目な顔になった。雰囲気が変わった。


「それを話さなくっちゃね。まず、ここは精霊界なの」


「さっきも言ってたよね。セイレイカイ?」


「そうだよ、人は死んだらここへ魂が飛んでくるの。

 そうして、一番お気に入りの年代の姿になれるの」


そうか。あの鏡の中に映ってた姿か。

20歳の頃のオレだ。


「それじゃもう一度、鏡でオレの姿を見ることは出来ないのかい」


あの時は一瞬だったので、はっきりとは覚えていなかった。

かなり懐かしい感じもした。

「見られるよ。お兄ちゃんが自分の姿を見たいと、思えばいいの」


はっは~ん。さっきのメロンパンの要領か。

落ち着けオレ。ひとりでいいんだからな。大勢のオレが出てきたら

あいつを調子付かせる格好の餌食になる。


よし。今の姿を見たい。ひとりだぞ。


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# by waketa | 2018-02-17 08:00 | 冥途の土産 | Comments(0)

冥土の土産 16 

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「椅子ってあった?。最初っからここに」


「お兄ちゃんがほしいと思ったから、出てきたんだよ」


そういえば、過去帳の話が出たときに、頭が混乱して、座りたいと思ったっけ。


でもいま、また妙な事を言ったな。

オレがほしいと思ったから、出てきた?。


「ほしいと思えば、何でも出てくるのかい?」


「何でもってことはないけど、大抵のものは出るよ」


「そんじゃ、メロンパンが食いたいと思ったら?」


「そんなものが食べたいの?。じゃぁ、右を見てごらんよ。ホラ」


そんなものって言い草はないだろう?。オレの好物なんだから。

それに、ホラ?。

人を馬鹿にした味気ない言葉だ。


しぶしぶ首を右に向けた。こんな光景を予測できるやつはいない。

誰がいつ置いたんだ。


これはマジックショーで、マジシャンがスタジオに入ってきて、紙袋をさりげなく

スタジオの隅っこに置く。いろんな会話をしてから、『いま一番食べたいものは何ですか?』

回答者が『メロンパン』って答えると、隅っこから例の紙袋を持ち出して、メロンパンを取り出すってやり方だ。


でもこれは度が過ぎてる。

そこにあるものは、ベーカリーショップの、陳列棚のようものもがあって

一面に100個以上のメロンパンが飾られている。


「ばっかじゃないの。ひとつでいいんだよ。ひとつで」

ひと言ひと言に、右手を前に突き出して叫んだ。


「お兄ちゃんが欲しいと思った分だけ出てきたんだと思うよ」

冷たく言い放つ。


つまりオレが馬鹿ってことなのか。

この感情はどこへ落とせばいいんだ

イライラ計は一気にレッドゾーンへ突入だ。


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# by waketa | 2018-02-16 08:00 | 冥途の土産 | Comments(0)

冥土の土産 15

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オレがなんでお婆ちゃんのお葬式を覚えてないのか、聞いてみた。


「あの頃のお兄ちゃん達は、大変だったでしょ。

 あの後妻のもとでさ」


またもいやな思い出が、飛び出してきたよ。

あの頃の継母には馴染めなくて、初めの頃はしゃべらなかった。

それが後々まで尾を引き、かなりいじめられたよな。


父親との間もうまく行ってなくて、喧嘩も絶えなかった。

お葬式どころじゃなかったのかな?。


それにしても、お婆ちゃんの記憶がひとかけらもないのは何故だろう?。

普通は何かしら、断片的にでもあるだろうよ。


少女は顔を少し上に向けながら、記憶を辿るようにして続けた。


「お兄ちゃんは、手のかかる子でね、 夜鳴きはしょっちゅうだったし、

 ちょっとでも母親が離れると『おかあしゃ~ん』て泣くし。

 お腹も弱かったんだよね~」


適当なことを言ってんじゃないのか。

「そんなこと言われても、オレ、覚えてないよ、

 そんな、ちっちゃい頃のことは」


ちょっと不機嫌になったオレに、さらに聞いてきた。


「ねぇ。お母さんのこと、覚えてる?」


「ああ。覚えてるよ」

「ふ~ん。覚えてるんだ。じゃぁ私のことは?」


椅子にもたれ掛けて、足を組もうとして気が付いた。

いつの間にか、オレは椅子に座っている。


「それを今考えてたんだけど。お婆ちゃんのこと全然覚えてない。

写真もないし、名前だけだよ。

それもそうなんだけど。オレはいつから椅子に座っているんだ」


「最初に私のことを、綺麗でも可愛くもないって言った後だよ」

オレの言ったことをしっかり覚えている。ひょっとして気にしてるんじゃないの。

効いてるよきっと。へへへ。


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# by waketa | 2018-02-15 08:00 | 冥途の土産 | Comments(0)



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